元いじめられっ子が挑戦するヒッチハイク3
谷村PAで静岡方面に向かう車を探すヒッチハイカー。
『中央道 富士吉田線』は『東名高速道路』につながっていないので、谷村PAからは直接、静岡県には行けない。
例えて言うなら、
パンケーキが焼きあがったところで、
ホットケーキミックスと牛乳の分量を間違えたからやり直したいと、
焼きあがったパンケーキをミキサーにかけてミックスと牛乳に戻そうとする料理人。
僕が、『不可逆』という言葉をちょうど知らない頃だ。
これまでのお話はこちら
それでも、静岡方面に向かおうとしていると、
60代ぐらいの釣りに向かうドライバーが
『あれ、おかしいなぁ。ここからは静岡方面に行けないはずなんだけどなぁ』
その時はこの人の言っていることが理解できなかった。
高速道路って全部つながってるんじゃないの?
どうしようもないアホだ。
ヒッチハイクの教科書1ページ目である地図を読もうとしない。
『でっかい道路と高速道路には、いろんな場所に向かう人がいるはずだ!』
ジャンプの主人公になれるかもしれない。
それでも、地図を読まずに車に話しかけていく。
大型トラックにも話しかける。
断られる。
へこんでるヒマはないので、次の車に話しかけようとすると、さっきの大型トラックのドライバーから話しかけられた。
『ここからは静岡に行く車はいねぇぞ。』
え?でも高速道路は全部つながってるんじゃ…。
続けざまに『静岡の次はどこに向かうんだ?』
僕『名古屋方面です!』
バカだけど、威勢だけはいい。
ドライバー『じゃあ乗れ』
4台目
この旅で一番長距離を乗せてくれたドライバーだった。40代後半ぐらいのおじさん。
おじさん『目的地はどこなんだ?』
僕『福岡です!屋台のラーメンが食べたくて!』
『お前、アホか!こういう時は熊本の震災のボランティアに向かうとかって答えんだ。善意で乗せてくれるドライバーさんがなんでお前の屋台のラーメンのために苦労しなきゃなんねぇんだ。ウソも方便だ。』
厳しい言葉を優しい口ぶりで話す人だった。
途中サンドイッチとコーヒーをご馳走になり、富士の樹海を抜ける。
僕の記憶はそこまでだ。これから長距離を運転しなきゃならない運転手の横で寝てしまった。
起きた。
『すみません。寝てしまって…。』
『あぁ、いいよ。疲れてるんだろうなと思って。』
この時は何も思わなかったが、今になって考えると、非常に無礼な行為だ。
それから渋滞に引っかかって、一度下道に降りたり、
乗せてもらったのは早朝5時だったけど、時刻は午前11時になろうとしていた。
そのおじさんは、収容台数が多いという理由で刈谷PAに降ろしてくれた。
パーキングエリアなのに、歩いて入ることができ、しかも観覧車まである。
もはやテーマパークと言っても遜色はない。テーマパーキングエリア…。口がすべった、すまない。
ここで人生初の味噌カツを堪能し、昨日の今を思い浮かべる。
乗せてもらうのに8時間かかったこと。歩く途中すごくキレイな女性を見かけたこと。
談合坂SAで話しかけてきた店員がめちゃくちゃ可愛かったこと。
人って24時間で東京から名古屋まで移動できるんだぁ。
新幹線で移動してしまえば、それまでかもしれないが、画用紙と勇気だけでここまで来れることに感動した。
しかし、ここはまだ通過点だ。目的地までの1/3の距離しか進んでない。
駐車場の出口で画用紙をかかげて、左右にフリフリ。回りの人からの視線やドライバーの無視はもはや気にならなくなった。
そして、4,5台目で軽自動車を捕まえた。
葬式帰りの滋賀県に向かう、喪服の女性2人組だった。
僕『大津サービスエリアに行きたいんです!』
喪服女性1『私達、大津で降りるから、その1コ手前の「草津サービスエリア」までしか行きませんよ?』
僕『大丈夫です!お願いします!なんだったら次のサービスエリアまででいいんで!』
喪服女性1『どうする?』喪服女性2『いいわよ』
5台目
運転席と助手席に喪服の女性。後部座席に僕。
女性は2人とも40歳ぐらいだろうか。
僕の目的地やどこから来たのか、生い立ちを一通り話した後、
僕に気をつかって寝てていいと言ってくれた。
なんか上手くいってる。
俺、ヒッチハイクしてる!
そんなことを思いながら、車の窓から外を眺めてた。
そして、寝た。
起きた。
感覚的ではあるが、だいぶ進んだらしい。
次は草津サービスエリアだったよなと標識を見ると、そこには『大津サービスエリア』の文字があった。
一瞬の混乱の後、
『ありがとうございます!』
女性1『いえいえ笑笑』
完全に善意だった。善意でしかなかった。
葬式ムード漂う中、変にテンションが高い青年を乗せてくれた上に、道中は寝ていいと言ってくれ、
自分達が下りるインターチェンジを通り過ぎて、変なテンション男の望みの場所へと連れてってくれた。
初めて来た土地で、これ以上ない施しを頂いた。
感謝しかない。
母からの電話
大津サービスエリアからは琵琶湖を眺望できる。
後光まで差してきた。
2階で琵琶湖を眺めながら少し休んでいると、電話が鳴った。
母の名前だった。
え?と思ったが、といあえず電話に出てみる。
僕『もしもしー!どした…』
母『あんた、なんしょんねー!』
次回に続く。